BARFOUT!

2011/07

BARFOUT! / 8月号「纏う。伊藤歩」

category: magazine - Brown’s Books - BARFOUT!

BARFOUT! / 8月号「纏う。伊藤歩」

Photography : 宮原夢画(Muga Miyahara Fotografia)
Styling : 小林新(高橋事務所)
Hair : JUNYA(高橋事務所)
Makeup : 遠藤真稀子(高橋事務所)

Text & ArtDirection : 鈴木利幸(united lounge tokyo)
Graphic Design : 三森由美(united lounge tokyo)

文 鈴木利幸

纏う。

ゆっくり、好きなものをあつらい
大切に纏いつづける。

「映画がよかった時代」という話をよく聞く。
つまり、もの作りが丁寧に行われていた時代のことをさすのだと思う。
時間をかけ、女優もスタッフも丁寧に育てられた時代といういい方もできる。

伊藤歩
そういう時代の最後に現れた女優。
新しいムーブメントという呼ばれ方というよりは
さも、昔からいたかのような存在感が彼女にはあるように思う。
ただ、不思議と笑いながら話す彼女に女優であることを感じることはあまりない。
でもレンズを通して見ると彼女は、まさに女優の顔になる。
つくづく女優は、美しさを競う職業ではないことを教えてくれる。

「18年女優やってきてどう?」
ざっくりとした質問に彼女は、「ようやく」という答えをくれた。
19歳の時にニューヨークに渡ったそうだ。
いまでいう自分探しのようなものだ。
支え、支えられ、助け、助けられ。
そういったものの営みの中に女優という職業もあり
それは特別な職業ではないことを知ったのだろう。

彼女の祖母の家は岩手県大船渡市にある。
高齢で一人暮らしの祖母を心配して
今回の震災よりずいぶん前から彼女は岩手と東京を
行ったり来たりする生活をしていた。
もちろん岩手の地元の人たちも彼女がくるのを楽しみにしている。
今年から朝の連続ドラマにも出ていたりするから
岩手のみなさんも嬉しいのだろうか。

そして、今回の震災が起こった。

言葉にすることも不自由なことを少しだけ、伊藤歩は話してくれた。
それは、被災することの現実は、ブラウン管を通してみるものと
違う部分があること。そして、岩手の地元のひとたちは、
伊藤歩が訪れることで、少しだけ嬉しそうにしてくれたこと。

これからは?
自分以外の人のために、そう答えた。
女優という職業も何か社会に対して貢献できるはずだ、と。
伊藤歩という女優は、普通だ。
女優に対して普通という言い方は失礼なのかもしれない。
でも普通である彼女は、何者にもなれる。
もっと普通な人にも、もっとクレイジーな人にも。

役をこなす度に成長している実感があるという。
役の数だけ、彼女は人生を生きている。
その度、自分以外の何かを見つけながら。ひろい集めながら。